記憶力は今からでも伸ばせる!? 楽しみながら鍛えよう!

記憶力は今からでも伸ばせる!? 楽しみながら鍛えよう!

「この頃、もの覚えがよくないのは年齢のせいだから仕方がない」とあきらめてしまっていませんか? 実は、記憶力の低下は年齢とは関係がないのだとか。今回は、池谷裕二先生に記憶のメカニズムと、記憶力を楽しく鍛える方法を教えていただきました。(出典:太陽笑顔 fufufu)

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お話を伺った先生

池谷 裕二 先生
東京大学 薬学部
薬品作用学教室 教授

1998年、東京大学 大学院薬学系研究科にて薬学博士号取得。専門分野は神経生理学、システム薬理学。海馬を通じて、脳の健康や老化について探究。脳の最先端の知見を、社会に還元することにも尽力している。『脳には妙なクセがある』(扶桑社)、『パパは脳研究者 子どもを育てる脳科学』(クレヨンハウス)ほか著書多数

記憶のメカニズムとは?

人の名前が思い出せなかったり、何をしようとしていたのか忘れたり……。記憶力が衰えてきたと感じるのは、年齢のせいなのでしょうか?

池谷 裕二 先生 “大人は、記憶力が低下したことをとても気にしますが、実際のところ、度忘れの回数(※1)は大人も子どもも変わらないんです。大人はそれを『老化の象徴』と捉えることで深刻になってしまうんですが、子どもは思い出せなくても、特に気にはしていない。それだけの違いなんです”
“使わなかった情報は、大人も子どもも半年もすれば忘れてしまいます。ただ、子どもにとって大昔である〝半年前〟は、大人にとって〝最近〟だったりしますよね。だから、大人はそんな〝最近〟のことを思い出せないのがショックなんです”

※1 度忘れの回数:2009年に発表された実験で、大人から子どもまで度忘れの頻度は一定だったという結果が報告されています。

私たちの脳は、どんな仕組みでもの事を記憶しているのでしょうか?

池谷 裕二 先生 “記憶を司る脳の海馬(かいば)(※2)には、必要な情報を取捨選択してふるいにかける機能があります。海馬が「この情報は必要」と判断する基準は、生命維持に必要かどうか、これだけ。動物は「ここで死ぬ思いをした」、「こうしたらエサが獲れた」など生命維持に必要なことから覚えていきます。そういうときは集中しているし、対象に興味が向かって感情が動いているでしょう? もの事を覚えるためには興味を持ってワクワクするなど、感情を伴わせることが必要なのです”

※2 海馬:脳の中にある、記憶を司る器官。さまざまな情報を収集し、それを統合したり取捨選択する「記憶の司令塔」として機能。屈曲した形が、タツノオトシゴ=海馬の尾に似ていることからこの呼び名になったようです。

記憶力を伸ばすコツ

一度記憶したことを忘れないようにするには、どうすればよいのでしょうか?

池谷 裕二 先生 “今までは、どれだけ情報を脳にインプットできたか? が問われていましたが、記憶を定着させるポイントは、その情報をいかにアウトプットしたかだということがわかりました。つまり、海馬は「こんなに入ってくるから」ではなく「こんなに使うなら」覚えようと、情報を選んで記憶していたのです”


(図1)2008年の大発見!実験でわかった!記憶の定着には出力が大切だった。

ハーバード大学の学生に、意味を知らない単語(スワヒリ語)40個を覚えてもらい、テストを実施。復習法・テスト法を変えた4グループで実施したところ、4グループとも7回ほどのテストで全問クリア。ところが、1週間後に再テストしてみると、グループに大きな差が出ました。 入力・出力の量を入れ替えただけのグループ③④の結果に注目すると脳は入力ではなく、出力の頻度に反応するということがわかりました。

では、海馬で覚えた記憶をさらに定着させるためのコツはありますか?

池谷 裕二 先生 “記憶のメカニズム(※3)の中では睡眠が大切な役割を果たしています。海馬がその日に覚えた情報を、寝ている間に整理整頓し、大脳皮質がそれを記憶として定着させます。海馬と睡眠(※4)が勝手に学習効率を上げてくれるのだから自分はぐっすり眠ればOK。こうして定着した情報は忘れ難いのが特徴。睡眠は自分への投資とも言えるでしょう”
“残念ながら、一夜漬けで覚えたことは忘れやすいんです。少しずつ学んで、睡眠で定着させるという繰り返しが、脳の生理に基づいた最善の記憶法です”

※3 記憶のメカニズム:もの事を記憶する過程では必要な情報を取捨選択する海馬の機能と、選んだ情報をきちんと系統立てて保管する大脳皮質の機能という、ふたつのシステムが働きます。海馬が睡眠中に選んだ情報を定着させ、大脳皮質で貯蔵することで記憶として使えるようになるのです。

※4 海馬と睡眠:海馬は寝ている間に選んだ情報を整理し直します。こうして記憶をバージョンアップさせ定着させるプロセスを「レミニセンス現象」と言います。


記憶力は年齢に関係ないということでしたが、記憶力がいい人とそうでない人との違いは、どんなところにあるのでしょう。

池谷 裕二 先生 “記憶力は年齢に関係なく、おもしろいと興味を持つことや、必要だと思うことにきちんと取り組むかどうかで違ってくるのです。記憶力の低下が「トシのせい」ではないということは、今からでも、いろんなことを覚えられる可能性が無限にあるということ。やみくもに記憶力アップを図ることはないけれど、いろいろなことに興味を持って前向きに努力をした結果、ワクワクと楽しい生活が送れるなら、それはとても素敵なことだと思いませんか?”


最後にメッセージをお願いします。

池谷 裕二 先生 “オランダの115歳で亡くなった女性の脳を解剖したところ、脳の機能がほとんど老化していないことがわかったのです。この実験結果から、脳の寿命(※5)は120年くらいだろうと考えられるようになりました。例えば、脳梗塞は脳神経細胞の病気だと思われがちですが、血管が衰えることによって起こる病気。脳自体はとてもタフなんですよ”

※5 脳の寿命:2005年に、当時の世界最高齢であるオランダ人女性が亡くなりました。115歳だったその女性の脳を調べたところ、脳のいずれの機能も若い時と差がないことがわかりました。女性は、加齢のほかは身体のどこにも疾患はない健康体でした。学者はこの結果から、脳そのものの寿命が120年はあるだろうと分析しています。

もの覚えがよくないことを年齢のせいだと思っていたのは、まったくの先入観であったことに気づかされました。大切なのは、ちゃんと覚えようとしているかどうか。これから、新しい習い事などにも挑戦してみたくなりました。池谷先生、ありがとうございました。

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この記事のまとめ

  • もの忘れは老化のせいではなく、要は興味があるかないか
  • 記憶を定着させるには、人に話したりするアウトプットが大切
  • ぐっすり眠ることで、記憶を整理整頓

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