使いすぎだけが原因じゃない!? ホルモンバランスと
腱鞘炎の関係
指先が曲がらない・腕が痛い。 手を酷使する人がなりやすいというイメージの「腱鞘炎(けんしょうえん)」、 実は、とても女性に多い症状って知ってますか?最近、女性ホルモンのバランスが関わっていることがわかってきました。第一線で研究されている西本先生に、そのメカニズムと対策についてお話しを伺いました。
doctor
お話を伺った先生
西本華子先生
神戸大学医学部附属病院整形外科
リハビリテーション部
平成15年神戸大学医学部医学科、平成24年神戸大学大学院医学系研究科博士課程卒業後、 神戸大学医学部附属病院整形外科リハビリテーション部に所属。現在に至る。 診療を行いながら、女性の腱鞘炎の原因についての研究を行っている。 第5回ロート女性健康科学研究助成受賞
女性は特に注意!?
腱鞘炎とは?
腱鞘炎って、どんな症状でしょうか?
腱鞘炎は、「腱」に沿って痛みが生じるのですね。
実際どのような方に多い症状なのでしょうか?
西本華子先生
腱鞘炎は、女性にとても多い疾患です。例えば、「ばね指」は80%程度が女性。平均年齢が50代という報告が多いです。関節リウマチ、糖尿病、痛風などの慢性的に炎症状態の人が、よく「ばね指」になりやすいとも言われています。最近では、パソコン作業に従事する人の腱鞘炎が増加しているという報告も見られます。
なるほど、女性に多い症状なのですね。
50代の女性に「ばね指」が多いということですが、女性のライフサイクルの中で、腱鞘炎になりやすい時期はあるのでしょうか?
西本華子先生
はい、妊娠中、出産後、更年期は特にかかりやすいと言われています。この時期は、女性ホルモン、その中でもエストロゲンの変化が著しいという特徴があります。
エストロゲンの欠乏は、骨、筋肉、血管など、さまざまな器官に影響を及ぼし、骨粗鬆症、動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞などの疾患につながります。同様に、「腱」もエストロゲンの欠乏の影響を受けますので、周産期、更年期の女性の腱鞘炎にエストロゲンが関係していると我々は考えています。
ダメージを溜めない!
「腱」を助ける女性ホルモンの働き
女性ホルモンのエストロゲンが減ることで、なぜ腱鞘炎を起こしやすくなるのでしょうか?
西本華子先生
腱へのダメージが蓄積しやすくなるためと、私たちは考えています。
エストロゲンに代表される女性ホルモンは、腱細胞を増やしたり、ダメージを受けた組織の修復する力の維持に関わったりしている可能性があります。
腱鞘炎はあくまでも、「手の過度の使用」といった、繰り返し刺激により腱がダメージを受けた(腱に微細な断裂が生じた)状態に発生するものです。しかし、ホルモンバランスが不安定な時期は、「腱」へのダメージが蓄積しやすいので、腱の痛みを感じやすくなるのです。
実際の診療の中で、どんな患者さんが多いのでしょうか?
痛みが出たら、どんなことに気を付けたらよいでしょうか?
「疲れをためない」、「痛みが出たら休む」、ということが大切ですね。
最後に、アドバイスをお願いします。
西本華子先生
インターネットには様々な情報があふれています。 なんだか指がおかしい、手が痛いと思ったとき、まずインターネットで検索される方も多いと思います。しかし、情報の内容によっては不安に陥ることもあるでしょう。痛みをやわらげるためには、生活スタイルに合わせた治療をすることがとても大切です。手の違和感がある場合は、早めに受診してください。
ホルモンバランスが不安定な時期は、実は、子育てや家事が忙しくなる時期と重なっているのかもしれませんね。痛みを感じたら、「がんばっている証拠」と思って、手を休める時間を自分にプレゼントしてみるとよいのではないかと思いました。 西本先生、ありがとうございました。
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この記事のまとめ
- 腱鞘炎は女性にとても多い症状
- ホルモンバランスが不安定なときは、腱の疲れがたまりやすいから要注意!
- 痛みが出たら、「がんばっている証拠」。同じ動作を減らす工夫を!
監修:乾淳幸先生(神戸大学医学部附属病院整形外科)
この研究は、第5回ロート女性健康科学研究助成を受賞しました。より詳しい内容はこちらへ
西本華子先生 手足を動かす「腱(けん)」が炎症を起こすことによる痛みを、腱鞘炎と言います。文字通り「腱」に沿って痛みが発生します。手で起こる痛みとして他に、筋肉痛や関節痛などがありますが、筋肉痛は筋を使いすぎた後などの筋肉の痛み、関節痛は関節の部分に腫れや痛みがあります。
よくある腱鞘炎としては、指(ばね指、ドゥケルヴァン病)とひじ(テニスひじ)の症状が有名です。「ばね指」は、指を曲げるための「腱」と、「腱鞘」という腱のまわりの組織との間に炎症が起こることが原因。手のひら側の指の付け根が痛みます。 「ドゥケルヴァン病」は、親指が他の指に比べて、関節の可動範囲が大きいことが原因。指の付け根から手の甲にかけて痛みます。「テニスひじ」は、ひじから手首にそった疼痛で、フライパンなどを持ったときに痛いと感じるのが特徴です。