ぐっすり眠りたいのに毎日することがいっぱいで、思うように睡眠時間がとれない。日本人のほとんどが、そう感じているのでは?
そこで、古賀良彦先生に、睡眠の本当のところを教えていただきました。(出典:太陽笑顔 fufufu)
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お話を伺った先生
古賀 良彦 先生
杏林大学名誉教授
日本精神神経学会認定専門医
1971年、慶應義塾大学医学部卒業。76年、杏林大学医学部精神神経科学教室に入室。90年に助教授、99年に主任教授を経て現在に至る。NPO法人日本ブレインヘルス協会理事長。著書に『熟睡する技術』(メディアファクトリー)などがある。
古賀 良彦 先生
“肥満の人の多くは、いい睡眠がとれていないと考えられます。肥満の原因は食事と運動だけではなく、睡眠とも関係しているのです”
“睡眠時間が短くなると、食欲を増進させる、グレリンというホルモンが活発に分泌される上、食欲を抑えるホルモン、レプチンの分泌量が減少します。食欲が増す一方になってしまうため、しっかり食事をした後でも、なんとなくお腹が空いたように感じて、つい食べてしまうといったことが起こりやすくなるのです。いい睡眠をとれば、レプチンが増加(下のグラフ参照)、グレリンが減少し、結果ふたつのホルモンの作用が整って、食欲が抑えられます。無駄に食べてしまう、といったことがなくなるはずですよ”
古賀 良彦 先生 “いい睡眠は、肌の老化予防に重要な成長ホルモンの分泌も促してくれます。成長ホルモンとは、その名の通り、ヒトの成長と代謝を促す物質。壊れた細胞や筋肉などを修復する大切な働きがあり、古い角質から新しい角質へ生まれ変わらせる新陳代謝や、紫外線などによって受けた肌ダメージの修復などの役割を担っています。ぐっすり眠った翌日に、肌をほめられたことはありませんか? いい眠りは体型にも肌にもいい効果をもたらしてくれるのです”
古賀 良彦 先生
“眠っている間に、脳が、その日得た情報を必要なものと不要なものに整理しています。学習で得た知識や、重要な約束、料理の手順など必要なものは記憶され、逆に毎日習慣になっていることや、情緒が伴わないようなものは残らないように削除されます。大事なものだけが研ぎ澄まされて記憶されるのです”
“ある日本の電機会社が、約2600人の従業員を8年間追跡調査したところ、睡眠に問題を抱えている人は、そうでない人に比べて、糖尿病に罹患する確率が2倍以上高くなっている(※1)ことがわかりました。糖尿病は遺伝的要素や体質、生活環境が絡み合って発症しますが、睡眠不足もそこにかかわっていると考えられます。高血圧もそうです。ある通信会社の調査で、睡眠に問題がある人のほうが、そうでない人に比べて約2倍高血圧になりやすいという結果が出たのです(※2)。眠りが健康に役立つという実感はないかもしれません。でも、いい睡眠をとれば、万病のもとになる肥満を防いで、糖尿病や高血圧など、放っておくと死につながるような疾患も防ぐことができるのです”
※1 Kawakami N. et al. Diabetes Care 2004;27:282-283
※2 Suka M. et al. J Occup Health 2003;45(6):344-350
古賀 良彦 先生
生活の質を高めてくれる「いい眠り」を叶えるための7つのアイデアをご紹介します。
<いい眠りを叶える7つのコツ>
1. 一時でもストレスから切り離された状態を作る
→生活にリラクゼーション(安らぎ)と、レクリエーション(娯楽)をプラス。特に、レクリエーションは重要で、頭の中のもやもやを取り払って眠りにつくことができ、いい眠りを作りやすいと考えられます。漫画でもゲームでも、好きなことを見つけましょう。毎日続けられるものが理想です。
2.照明は、ほのかな明るさで
→枕元にあるものがぼんやり見える程度の明るさがあったほうが、いい睡眠につながります。真っ暗で無音だと感覚が遮断されて意識の混濁を起こしやすくなります。脳に少しの刺激があったほうが安心感を持って眠れます。
3.就寝時間を決める
→これが終わったら寝る。そうしていると睡眠時間がどんどん短くなってしまいます。起床時間を決めているように、就寝時間も決めてしまいましょう。片づかない仕事は朝早く起きてやるほうが、リズムも整い、はかどります。
4.「入眠儀式」で気持ちを切り替える
→眠りの前に、ある一定の行動をする、同じことをイメージするなど、睡眠のためのセレモニーを"入眠儀式"と言います。明日着る服を用意して、ベッドに入って本を読むなども、立派な入眠儀式。好ましい状況や楽しいシーンを思い浮かべることも、リラックスにつながるので、とてもいいことです。
5.スマホは夜ではなく、朝に見る
→スマホが発する青色光・ブルーライトは脳を覚醒する光。眠る前に見ると睡眠の途中で目を覚ましやすくなります。ただ、ブルーライトは悪者ではなく、脳を覚醒させる"目覚ましの光"。眠る前はやめて、目覚めのときに見るようにしましょう。すっきりと目覚めることができます。
6.平日の睡眠不足は休日の朝寝坊で補う
→睡眠の貯金はできませんが、不足した睡眠を取り戻すことはできます。平日がんばり過ぎている人は、いつも起きる時間のプラス2時間を目安に、ゆっくり眠りましょう。ただ、休日でも翌日に仕事がある場合は、平日と同じ時間に起床を。そうすることでリズムが整って、休み明けの朝がつらくありません。
7.枕はその日の気分で決めてOK
→自分の頭や首に合った枕を使うのもいいですが、その日、頭を乗せたときの感覚で、枕をふたつ重ねて高くするなど、変えてみてもいいでしょう。また、眠っているときは20回近く寝返りを打っていますから、横幅は50センチ以上あるものがいいでしょう。人生の3分の1は睡眠。寝具に少しお金を使って、良質なものを選ぶと、眠りを大切にするきっかけにもなります。
古賀 良彦 先生 “まず、睡眠に対する考え方を変えてみましょう。ほとんどの人は、美と健康のために、食事と運動と睡眠が大事であることはご存知のはずです。でも、食事や運動と同じように、よりよい睡眠にしよう! と努力している人は少ないようです。眠りは大事だとは思いながらも、睡眠に対する努力や工夫は後回しになってしまっているのではないかと思います。今やっていることが終わったら寝る、という状態をまずは変えてみましょう。食事や運動と同じように大切に考えることで、いい睡眠が得られるようになりますよ”
理想とされている7~8時間の睡眠をとるのは、忙しい現代人にはなかなか難しい話。でも、先生のお話で、長く眠るよりも、気持ちを切り替えたり、決まった時間に寝るほうが大切なことがわかりました。これからの美と健康のために、「いい睡眠」を味方にしたいものです。古賀先生、ありがとうございました!
古賀 良彦 先生 “理想の睡眠時間は7~8時間”のように言われますが、実は明確な医学的根拠はありません。6~9時間という平均値をもとに、そう言われているだけなのです。先進国の平均睡眠時間(下のグラフ参照)を見ても日本人が最も短いのですが、実はあいまいです。日本が調査した睡眠時間は“眠っていた時間”ですが、どうやらヨーロッパでの調査は、“ベッドに入っていた時間”のようなのです。フランス人女性と、日本人女性の睡眠時間には1時間ほど開きがありますが、本当はそれほど差がないのかもしれません”
“生活に支障が出る場合は別ですが、時間を思うようにとれなくても、その分「いい睡眠」をとれるよう心がければいいのです”