成長期 予防

免疫力にも関わる!?
“菌”との上手なつき合い方

免疫力にも関わる!?“菌”との上手なつき合い方

身の周りをいつも清潔に保つのは、気持ちがいいもの。けれど、少しでも汚れたら、除菌シートやスプレーで拭き取ったりして、菌は身体に悪いものと思い込んでいませんか?
実は、菌を排除し過ぎてしまうことによって、健康が脅かされていることも。今回は、菌との正しいつき合い方について稲川裕之先生にお話しを伺いました。(出典:太陽笑顔 fufufu)

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お話を伺った先生

稲川裕之 先生
香川大学医学部
統合免疫システム学講座
客員准教授

埼玉大学工学部卒業。2011年より、香川大学医学部統合免疫システム学講座客員准教授。生物の免疫機構解明を専門とし、30年間にわたりマクロファージの活性化制御に基づく難治性疾患予防等の研究に携わる。自然免疫制御技術研究組合研究本部長、NPO環瀬戸内自然免疫ネットワーク理事、新潟薬科大学特別招聘教授兼務

「清潔=無菌」は正しい?

そもそも菌とは、私たちの身体にとってよくないものなのですか?

稲川裕之 先生 “O-157など感染力の強い菌の存在や、風邪やインフルエンザを引き起こす"ウイルス"と菌を混同してしまい、菌が体内に入ると病気になると思っている人がいるかもしれません。でも命を脅かすような危険な菌はごくわずか。実はほとんどが害のないものなんです”

では、すべての菌をおそれる必要はないのですね。逆に、菌を極端に排除することで、健康に影響はありますか?

稲川裕之 先生 “私たちの周りには常に大量の菌がいますし、そもそも人間の体内外には多くの菌がいます。私たちは菌と共存することで生きているんです。しかし菌を悪いものと思い、健康のためにとあえて菌を遠ざけている人が多い。実はこの行為が身体の不調を招いているのです。例えば、生まれたての赤ちゃんは出産時にすでにお母さんからさまざまな菌をもらっています。でも赤ちゃんは抵抗力がないというイメージからか、授乳時には乳首を消毒してからお乳をあげるのが一般的に。でもその行為こそが赤ちゃんの病気と闘う力を低下させているのです”


健康のために大切な「LPS」とは?

稲川先生が研究されている"LPS(リポポリサッカライド)"も、私たちと共存する菌のひとつですか?その働きを教えてください。

稲川裕之 先生 “LPSとは土や空気中にいる菌の膜に存在する物質のことです。人間の体内の免疫細胞を活性化し、病気から身体を守る力=免疫力を高めることから"免疫ビタミン"とも呼ばれています”
“土や緑の多い場所で生活をすれば、LPSは自然に摂取できるんです。しかし衛生的過ぎともいえる環境に暮らし、過剰に衛生的にしようとする行動により、LPSが摂取できなくなってきている。このことは現代人の免疫力が下がってきている原因のひとつと考えられているんです” “免疫細胞を活性化するLPSの摂取量が減ると免疫力が下がり、その結果、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなったり、がんなどさまざまな病気を発症しやすくなってしまうことも最近の研究でわかってきています。菌を避ける行動全般によって、そんな弊害も出てくるのです”

<LPSは悪いものだと思われていた?>

LPSはもともと、注射することで敗血症という全身性の炎症反応を引き起こす原因物質として発見されました。血液中に入ると強力に全身の免疫を活性化し過ぎてしまうため、発熱や下痢、嘔吐などのショック症状を引き起こすということで、長年害のある物質だと認識されてきたのです。しかしその後の研究で、LPSは口や皮膚からは日常的に摂取されていて、まったく問題がないばかりか、健康維持のためには必要な成分であることが確認されました。

LPSの摂取量が私たちの健康に具体的にどのような影響を与えるのでしょうか?

稲川裕之 先生 “厚生労働省の調べによると、現在日本人の3人に1人が何らかのアレルギー疾患にかかっているというデータがあります”
“2002年、ドイツ・ミュンヘン大学での研究で【アレルギー体質になるかならないかは、幼いときのLPS摂取量による】という研究論文が発表されました”
“田舎に住んでいる子どもと都会に住んでいる子どもを比較し、なぜ田舎の子どもの方がアトピー性皮膚炎やぜんそくになりにくいのか、その原因を調べたもので、結果、両者の間には幼いときに摂取したLPSの量に大きな差があることがわかったのです。自然豊かでさまざまな菌に触れることができる田舎では、その環境がLPSの摂取量を多くしていたと考えられます”
“免疫細胞を活性化するLPSには、体内の偏った免疫バランスを正常に戻してくれる働きもあります”


体内の免疫のアンバランスさから引き起こされるアレルギー反応ですが、LPSはこのバランスを整え、アレルギー症状の改善や予防に役立つことがわかっています。田舎ではLPSがたくさん摂取できるから免疫システムが正常に働き、アレルギーになりにくい。反対に衛生面が整い過ぎた環境では、それができないからアレルギーが年々増加していると言えるでしょう。現代病とも言われるアレルギー疾患の急増は、LPSの摂取量が減っていることとも深くかかわっています。

菌と上手につき合うには?

稲川先生のお話を聞いて、菌は健康にとって必要なものということはわかりました。しかし、これまで日常の中で、除菌や滅菌を習慣としてきた人もいると思います。菌と共存するのは、どんなことから始めるといいのでしょう?

稲川裕之 先生 “おすすめなのが、海や川、森や山など、自然のあふれる場所に足を運んでみること。おいしい空気を吸ったり、美しい水に手を触れたりすることでおのずとLPSを含むさまざまな菌に触れることになります”

<菌と上手につき合う3つのポイント>

1.自然と触れ合う
緑豊かな森に足を運んだり、川の水に触れてみたり。ゆったりとした気持ちで自然と触れ合っていると、多様な菌に触れ合えるだけでなく、LPSも摂取することができます。休日はガーデニングをするなどして、楽しく土に触れる機会を増やすのもおすすめです。

2.洗い過ぎない
手や肌を洗浄力の強い石鹸でごしごし洗うと、もともと皮膚の表面にいる、潤いを生み出すために必要な菌まで一緒に洗い流してしまいます。だから神経質に洗い過ぎるのはNG。こすらず汗や脂を洗い落とす程度で十分なのです。

3.食べ物からLPSを摂る
蓮根やさつまいもなどの根菜類や、わかめやめかぶなどの海藻類、さらに玄米などには、LPSが多く含まれています。加熱してもLPSは壊れないので、調理をしても大丈夫。また基本的には摂り過ぎによる弊害もありません。現代人は慢性的なLPS不足と考えられるので、普段の食事で積極的に摂りましょう。

最後にメッセージをお願いします。

稲川裕之 先生 稲川裕之先生
“私たちの身体には腸内で1000、皮膚で200、口腔内で700種類もの菌がいます。一般的には善玉や悪玉と言われるものもありますが、私はその呼び方に違和感があります。ほとんどの菌は身体には必要なもので、大事なのはバランスだからです。それらのバランスによって、私たちの身体や心がよい状態に保たれています。菌とは切っても切り離せないほど、密接な関係があるんです”
“これからは、過度に菌を排除するのではなく、味方にするくらいの気持ちで菌とつき合ってみてはいかがでしょうか?”

食中毒のニュースを聞くたびに、菌はおそろしいものと思い込んでしまっていました。もちろん、怖い菌には注意しなくてはいけませんが、除菌や滅菌をしすぎると、健康のために必要なものまで排除してしまっていることを初めて知りました。もっと大らかな心で、緑や土と自然に触れ合いたいものです。稲川先生、ありがとうございました!

Summary
この記事のまとめ

  • 感染力の強い菌も存在するが、実は身体には害のない菌がほとんど。
  • 問題は間違った清潔感。身体に必要な菌もいる。
  • 菌は排除するのではなく、自然に触れ合い、共存していくことが大切。

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