女性特有のサイレントキラー 「卵巣がん」とは?

女性特有のサイレントキラー 「卵巣がん」とは?

女性に関わる「がん」というと、芸能人が発症したニュースも多い「乳がん」やがん検診の項目に入っている「子宮体がん・子宮頸がん」は、耳にする機会も増えました。しかし、もう一つ忘れてはならない「がん」があります。それは、「卵巣がん」。どのような治療をおこなっているのか?意識しなければならない方とは?卵巣がんの画像診断研究でご活躍されている田中優美子先生に伺いました。

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お話を伺った先生

田中優美子先生
がん研有明病院
画像診断部婦人科領域担当部長

筑波大学医学部専門学群卒業後、筑波メディカルセンター、筑波大学医学医療系勤務を経て、現在日本有数の卵巣がん診療施設であるがん研有明病院に勤務。産婦人科領域のMRI画像診断を専門とし、特に卵巣がんにおける画像診断の技術の向上に尽力している。日本医学放射線学会・日本産婦人科学会・日本婦人科腫瘍学会などに所属。著書に『産婦人科の画像診断』(金原出版)『婦人科MRIアトラス』(共著、学研メディカル秀潤社)がある。
第4回ロート女性健康科学研究助成受賞

女性らしさをつくる卵巣

女性に特有の「がん」について教えてください。

田中優美子先生 女性には女性特有の身体の構造である「乳房」「子宮」「卵巣」に関わるがんがあります。罹患数(がんと診断を受けた人の数)が最も多いのは「乳がん」で、子宮・卵巣のがんに大きな差はありません(図1)。しかし、死亡数(亡くなる方の数)は「卵巣がん」が「乳がん」についで2位となります(図2)。また、「卵巣がん」に罹る年齢は平均50歳で、乳がんや子宮のがんに比べ比較的高いことも特徴です。これには、「卵巣がんが見つけにくい」という背景があります。乳房・子宮のがんは、診断技術の発展・検診の普及と共に早期発見・早期治療の可能性が広がったのに対し、「卵巣がん」は検診の有効性が未だに確立されていません。つまり、早期発見が難しく、見つかった時にはすでに症状が進行している場合が少なくないのです。


図1

図2

そもそも、卵巣とはどのような臓器なのですか?


田中優美子先生 卵巣は、図のように子宮の左右に一つずつあり、名前の通り「卵子」を作る臓器です。さらに女性にとって重要な「女性ホルモン」を分泌する役割も担っています。女性ホルモンは、女性らしい身体を作る他、骨や血管の健康にも関わり最強のアンチエイジング成分と言われるほどです。「卵巣」は女性らしさを保つためにとても大切な臓器なのです。

卵巣がんには、どのような自覚症状があるのでしょうか?

田中優美子先生 「卵巣がん」はほとんどが初期症状がなく、自分では気づきにくいという特徴があります。卵巣の周りには密接した臓器がなく、異常が起きても痛みを感じにくい構造になっているからです。そのため、お腹が張ることがありますが痛みを伴わないため「ちょっと太ったかな」と、放置してしまう方が多くいらっしゃいます。発見されたときには症状が進行しているケースが多く、一刻も早い治療が必要です。

治療を支える画像診断

どのような治療を行うのですか?

田中優美子先生 「卵巣がん」の治療方法は、摘出手術と化学療法(抗がん剤)が中心になります。近年では、手術の負担を減らすために、手術前に抗がん剤治療を行いがんを縮小させる方法が取り入れられています。しかし、この方法をすべての患者様に行えるわけではありません。実は、「卵巣がん」には大きく分けて4つのタイプがあり、それぞれ抗がん剤の効果が異なります。(下記参照)難しい名前ですが、明細胞がん・粘液性がんは効果が低いタイプ、漿液性がん・類内膜がんは効果が高いタイプです。効果的な治療を行うためには、どのタイプのがんであるか?を見極めることが非常に重要です。


どのようにがんの種類を見極めるのですか?

田中優美子先生 基本的には、開腹手術や腹腔鏡で採った組織を顕微鏡で見て「卵巣がん」の種類を診断します。しかし、がんが進行している場合は、手術が患者様の体力面で大きな負担となります。この問題を解決するため私はMRI(磁気共鳴画像法)を用いた画像診断で卵巣がんの種類を予測する方法を開発しました。また、PETやCTを用いてがんの広がりを診断することも、治療方針を決定する上で大事な仕事です。まだ、課題も多くありますが適切な治療へとつなげられるよう、診断方法の確立をめざし現在も研究を進めています。
しかし、正確に診断できても進行した状態で発見された場合は、どのタイプのがんであっても治療に難渋しますので、早期発見が何より大切です。まずは、「卵巣がん」のリスクに対する正しい知識を身つけて下さい。


では、どのような女性がリスクを意識した方がよいですか?


田中優美子先生 まず、「子宮内膜症になったことがある方」は注意しましょう。「卵巣がん」は、子宮内膜症にかかった経験があるとリスクが上がります。閉経後は子宮内膜症が進行することはないと、婦人科への受診を控えてしまう方が多いでのですが、閉経後も婦人科に通って検査を行いましょう。
また、「家族に乳がん・卵巣がんの経験者がいる方」も注意が必要です。遺伝の影響はこれまで2~3%と考えられてきましたが、関連遺伝子の研究が日本でも進み、近年では10%も影響していることが分かってきました。このような方は、比較的卵巣の状態を把握しやすい腟超音波検査(経腟エコー)もありますので、婦人科検診で相談してみてください。

リスクのある方は注意が必要なのですね。
最後にみなさんにメッセージをお願いします。

田中優美子先生 「卵巣がん」は、食事や運動との関係、予防につながる生活習慣など残念ながらまだ分かっていません。今後、様々な研究で明らかになってくると思いますが、このような状況だからこそ、まずは「卵巣がん」に関心を持ったり、身体の変化に気付いたりリスクを意識して専門家に相談することがとても大切だと思います。不安を感じたときは早めに受診して下さい。

「卵巣がん」について、普段耳にすることが少なく、これまで意識をしたことがありませんでした。女性らしさを作ってくれる大事な「卵巣」のこと、検診がないからを理由に無関心であってはならないと痛感しました。田中先生、ありがとうございました。

Summary
この記事のまとめ

  • 自覚症状がないから見つかりにくい卵巣がん
  • 画像診断でがんの種類を見極めることが治療の鍵
  • リスクを知って一早く検診を

監修:がん研有明病院 婦人科部長 竹島信宏先生
この研究は、第4回ロート女性健康科学研究助成を受賞しました。より詳しい内容はこちらへ